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「歴史総合」シンポジウム《歴史教育の現場との対話―歴史の語り方、史資料の使い方―》に参加しました!

 今回は2023年度平ゼミブログ連載企画「平ゼミってどんなゼミ?」の番外編になります。平ゼミ4年生4名・3年生1名と有志の2年生1名は、108日(日曜日)に明治大学駿河台キャンパスリバティタワーで開催された、歴史学会主催の第6回「歴史総合」シンポジウム」に参加しました。本シンポジウムは、昨年度から全国の高等学校で実施されている新科目「歴史総合」における現状の課題を把握し、さらなる発展にむけた現場との意見共有を目的として、第一部「高校教育の現場」、第二部「資料館及び教科書執筆の現場」、第三部「コメント・ディスカッション」から構成されています。今回は、私が特に共感し、学ぶことの多いと感じた第一部と第三部について紹介したいと思います。

 第一部では、現職の高校教諭3名が1年間の歴史総合の授業経験を通しての課題と成果を報告しました。一番目の報告は、「『歴史総合』を学び方を学ぶ科目」と位置づけ、(1)歴史へのアプローチの仕方の修得、(2)概念などを活用して多数の問いの存在への視点の獲得、これらを目指した授業を通じて学習指導要領と生徒のアンケートを照応したうえでの成果と課題を提示しました。二番目の報告では、現在「あたりまえ」になっている概念・価値観を問い直し、新しい社会を構想する力(=相対化)を養うことを目指した授業を実践していくなかで、価値観を相対化することの難しさや「歴史総合」と「探究」科目の関係性、大学入試との兼ね合いについて見解を述べていました。三番目の報告は、初年度の歴史総合をまずもってやり遂げることを目標として、生徒が考察・実践することを目指した授業を展開するなかで、学習指導要領と授業の進み具合を照らし合わせた成果と課題を報告しました。名の報告を拝聴して、まずは「歴史総合」という科目が発展途上の科目であり、現場の教員でさえ消化しきれていない現状、歴史教育の難しさを痛感しました。また、一番目の報告からは、「学び方を学ぶ科目」であるという認識と、歴史のなかに散りばめられた問いの存在に気づくことの大切さに強く共感する一方で、知識網羅的な歴史教育からの脱却の難しさ、歴史的事象を教科固有の概念、さらには汎用的概念に昇華させることの難しさを実感しました。二番目の報告からは、私立学校ならではの自由度の高い教育スタイルと問題意識の高さに驚くとともに、相互的学習や主体的学習が徐々に形になっていったことに今後の歴史教育への期待感を抱きました。しかし、その為には史資料の必要性やそれらを生徒に適した形で提示するための歴史的知識や思考力が教師に求められると感じました。三番目の報告からは、実際に配布された授業プリントから、史資料を読み取り、考える授業の必要性を理解する一方で、「グローバル化」という現在進行形の歴史を扱うことの難しさ、「今」を歴史として扱うことの困難さを突きつけられるとともに、事実羅列やテーマのつぎはぎにならないようにしたいという発言に自分自身の意識も見直さなければと感じました。

 第三部では、本シンポジウムの内容を踏まえて、東京大学の長谷部圭彦氏が事前討議で整理された論点に対してコメントを返す形でディスカッションが繰り広げられました。論点は3点。(1)歴史研究者は歴史教育をどのように考えているか?(2)歴史総合は多くの生徒にとって最後の歴史系科目となる。何を伝えるべきか?(3)歴史総合を学習した生徒をどのように評価すべきか?これらに対する長谷部氏のコメントは、(1)については、歴史研究者の研究者としての評価は研究によって判断されるため、全般的な底上げは難しいが、歴史教育については関心を持つべきであり、(2)については、世界の現状を理解するための大まかな歴史的な流れ、時間軸にもとづく理解、正確な情報にもとづく思考、複数の視点から事象を眺める能力、これらを修得させるべきであろう、(3)については、大まかな歴史的な流れは通常の問題形式、歴史的なものの見方はグループ作業などの活動で評価できるであろう、というコメントが提示されました。このディスカッションを通して、私たちがいま大学で受講している歴史教育を通して学ぶべきことの多さとその必要性を強く感じる一方で、大学教育と現場が乖離しているという現状を踏まえて、教員を目指す私たちにはその橋渡し的な役割が求められているのではないかと感じました。

 最後に、本シンポジウムに参加して、「歴史学」を「歴史教育」に落とし込むことの難しさ、それを克服するためにさらなる努力が教員に求められているものと気づくことができました。そして、大学時代における「歴史学」の修得、とりわけ平ゼミの卒業論文執筆にむけての様々な実践が、教員としての教材研究をはじめとした授業の発展に大きな力になると確信しました。大学教育と歴史教育を橋渡しできるような教員になれるよう、今後のゼミ活動を仲間たちと共に邁進していこうと思います(文責:平ゼミ3年・近藤)。